専門分野 世界自動車産業

日本は自動車「一本足打法」の国


自動車産業は、日本の屋台骨だ。

日本の国内市場規模は40兆円強。このうち自動車関連には、日本の就業人口の1割弱にあたる約550万人が従事している。

戦後から高度成長期、日本を支えてきた繊維、造船、そして電機産業が日本の主力産業の座から次々と姿を消すなか、日本経済は自動車など輸送産業に頼る産業構造になっていた。

世界に目を向けると、2000年代に入り中国やインドなどの新興国の経済規模が一気に拡大。自動車の重要市場が先進国から新興国へとパラダイムシフトを起こした。

また2010年代には、次世代通信や人工知能などの新技術が自動車産業を深い関わりを持つようになる。

 

さらには、若い世代を中心に「所有から共有」という概念が拡がりはじめ、シェアリングエコノミー領域で新しいサービス事業が次々と生まれている。


自動運転


自動運転は本当に必要か?

2010年代に入り世界的な自動運転ブームとなったが、2020年代の前にブームは沈静化に向かっている。

その理由は、社会が本当に自動運転を受け入れるかどうか。いわゆる、社会受容性の問題である。自動運転には様々な性能レベルがあり、当面はこれらが社会の中で混在する。

そうなると、法定速度を守るクルマと、そうではないクルマが混走することになる。ならば、自動運転向けの専用車線が必要なのか?

半導体メーカーが主体となり進化を続ける画像認識、産学官が連携して実現した高精度な三次元地図、そして5G(第五世代通信)による遅延が少ない通信環境の整備への準備など、自動運転の技術的な精度は2010年代半ば以降に一気に上がった。

グーグル(親会社アルファベット)からスピンアウトしたWaymo(ウェイモ)はライバルを圧倒する実車での公道テストを続けている。

一方で、2018年はライドシェアリング大手のウーバーが自動運転車の公道テスト中に歩行者をはねて死亡させる事故も発生した。

筆者がエボルーション大使を務める、福井県永平寺町では2019年度まで4年度連続で、経済産業省と国土交通省によるラストワンマイル自動走行実証を行っている。行政機関、自治体、民間企業など全国各地から視察が多く、エボルーション大使として意見交換に立ち会うことが多い。

一般的には、自動運転は今後、自家用車(オーナーカー)と公共交通(サービスカー)それぞれが独自の進化を続け、最終的には完全自動運転の世界が来ると考えられている。

そうした中で、改めて思う。

自動運転は社会にとって、本当に必要なのか?


執筆記事

「自動運転を町の産業に」永平寺の町の未来を見据えた挑戦

https://diamond.jp/articles/-/131882


ウーバーが起こした死亡事故の重大すぎる罪

https://toyokeizai.net/articles/-/213366


EV 燃料電池車 ハイブリッド車 電動化


地球環境の見地から、地球温暖化に対して配慮する。

これが、EVや燃料電池車に対する自動車メーカーによるタテマエだ。

確かに、大筋ではそうなのだが、実態としては世界各国・各地域が公表しているCO2の総量規制、またはEVなど電動車の台数規制(クレジット制度)への対応に過ぎない。

つまり、自動車の販売台数を増やすことが前提であり、結果的にはガソリン車やディーゼル車を電動車に置き換えるという解釈にとどまる。

一方で、欧州ではフォルクスワーゲングループが仕掛けたマーケティング戦略としての「EVシフト」の影響が色濃い。また、プレミアム系ブランドで高付加価値との観点で、高級EVモデルの発表が続く。

未だに、自動車産業界では真意で地球環境を考えた電動化が進んでいるとは思えない。

地球人として、電動化における次の一歩がまだ見えない。


執筆記事

HV特許を無償化、それでもトヨタの未来が見えてこない理由

https://diamond.jp/articles/-/13188https://diamond.jp/articles/-/200140


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市川市の高級電気自動車「テスラ」購入が大騒動になった理由

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コネクテッドとMaaS/CaaS


2014年から2015年にかけて、アップルとグーグル(現在の親会社:アルファベット)がスマホと車載器の連携で「カープレイ」「アンドロイドオート」を開発。さらに、アンドロイドを車載OSとして普及させる動きが加速。

これが、コネクテッドカーが注目される大きなきっかけとなった。

時を同じくして、Uber(ウーバー)やLyft(リフト)などアメリカ発のライドシェアリング事業が一気に拡大。クルマの世界にも「所有から共有」というシェアリングエコノミーが一気に流れ込んだ。

2020年代前半に実用化が始まる5G (第五世代通信)を加える形で、公共交通再編でのMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、または自動車流通再編でのCaaS(カー・アズ・ア・サービス)という分野での議論が世界各地で活発になっている。

そうした中、MaaSについては、民間企業によるマネタイズ(事業化)が難しいという認識が広まってきており、「次の一手」をどうするべきか、さらなる議論が必要だ。


執筆記事

トヨタの大英断、販売系列実質廃止は「ディーラー消滅」の前兆か

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都市での「脱・クルマ依存」が世界で加速、自動車産業は曲がり角

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空飛ぶクルマ


2014年に米FAA(連邦航空局)が有視界を超える範囲でのドローン運用について規制緩和を行った。これをきっかけに、小型の物流ドローンに関する事業開発が世界各地で活発化した。

また、UberやLyftなどの米ライドシェアリング業と大型ドローンを組みわせた、飛行型ライドシェアリング事業についての議論が盛んになった。

こうした、垂直離着陸を行う飛行体をVTOLと呼ぶが、日本では「空飛ぶクルマ」と称されることが多い。

日本においては、災害時・緊急時での短距離・短時間の活用についての可能性はある。

だが、米中にようにライドシェアリングを出口戦略として持たない日本の場合、事業性に関する議論が乏しいのが実情だ。


執筆記事

「空飛ぶクルマを日本で実現するのに圧倒的に足りないもの」

https://diamond.jp/articles/-/191569


エネルギー産業



日本はLNG (液化天然ガス)の世界最大の輸入国。

東日本大震災後、原子力発電所の再稼働が社会問題化し、天然ガスによる火力発電の需要が拡大した。

日本は諸外国からLNGをかなり高価で交わされている現状を早期に見直す必要がある。

また近年、アメリカやカナダで発掘が進むシェールガス。原油、石炭、天然ガスに対して非在来型と呼ばれる資源のひとつだ。アメリカはシェールガスにより、エネルギー自給率100%を超えることを目指す。エネルギーセキュリティの観点で世界図式が大きく変わる。

日本においても、LNG輸入における世界各地との関係性に変化が生じる可能性がある。


執筆記事

歴史的第一歩「LNG産消会議」の現場で感じた米政府が描く天然ガス車戦略の思惑

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米エネルギー源の切り札「シェールガス」注目集中 天然ガス自動車はEVを超えるエコカーになり得るか?

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